重ねた嘘、募る思い
「――あのねぇ」
呆れてそうじゃないと言おうとした時、醍醐くんの冷めた目が私を見据えているのに気がついた。
心底迷惑そうな表情が私の胸を抉るように突き刺さり、背筋に汗が伝う。一瞬覚えた恐怖にも似た感情は私の思考を一気にクリアに導いた。
もしかして……と、いやな予感しか浮かばなかった。
こうしてわざわざ地元から離れた図書館を利用したのは私と一緒にいるところを知り合いに見られたくなかったから。
醍醐くんがこの図書館を指定した理由がわかった時、喉元がぎゅっと詰まったかのような息苦しさを覚えた。
「いいよ、つきあう」
なんの感情も含まない私の声。
まるで自分が言ったんじゃないような感覚にさえ陥る。
了承すると明日からは自分と会うように約束を取り付けて大里くんは帰って行った。
残された私と醍醐くんの間に気まずい沈黙が流れたのは言うまでもない。
このまま黙っていてもどうにもならないと思い、醍醐くんに声をかけようとした、その時。
「軽い……」
軽蔑の眼差しが私に向けられていた。
「じゃ、今日で終わりということで」
開かれた教科書やノートをてきぱきと片づけていく醍醐くんの動きを視線だけで追うことしかできない。
軽いってどういうことだろうか。
私がしたことは間違っていたのかな。なぜか醍醐くんがすごく怒りを湛えているようにしか見えなかった。
ほんの少し前まで和やかに話をしていたのにそれが嘘だったみたいで。慌てて荷物を片づけて図書館を出て行く醍醐くんを追いかけた。
「待ってよ!」
引き留める私を無視して自転車に乗った醍醐くんは颯爽と坂道を下り、あっという間に見えなくなってしまっていた。