重ねた嘘、募る思い

 クリスマスイブの終業式。
 私は醍醐くんの下駄箱に手紙を入れた。
 
 ――放課後、校舎裏に来て

 名前も書かず、時間も指定しない。
 呼び出した相手が同じクラスじゃなかったらホームルームの終了時間も微妙に違う。それでも醍醐くんは手紙の主を待っていてくれるだろうか。
 差出人が私だと知ったらいやな顔をするだろうか。

 そんな時に限って先生に呼ばれたりする。
 用があるからと手早く伝えられた内容は本当に大したことじゃなくて柄にもなく焦って校舎裏まで走った。
 なぜこんなに気がせくのかわからない。
 何を話したいのかもまとまっていないのに、呼び出した醍醐くんがそこにいるかどうかだけが気になって。
 吐き出す息が白く、瞬時に消えてなくなる様が強く印象に残っている。
 自分の身体が走り抜けて切る風が冷たくて耳が痛い。長い髪が左右に流れてまるでそこに意識が集中したかのような感じになる。

 体育棟に繋がる渡り廊下から裏庭に出ると、校内で一番古くて大きな木の下に佇む醍醐くんの背中が見えた。
 まだ距離はある。何度も深呼吸を繰り返し、息を整えてから静かに近づくけど醍醐くんはわたしの存在に気づいていないようでじっと持っている本に視線を落としている。
 まるで他のことなどどうでもよくて邪魔するなと厚いオーラをまとったかのようにも見え、このまま何も言わず立ち去りたい気持ちになった。
 だけどそれこそ失礼だと思ってゆっくりと歩みを進めると、踏みしめた草が僅かな音をたてた。

 警戒心むき出しの醍醐くんの鋭い視線が私を捉えたと同時に眉根に思い切り皺を浮かべて目を眇められた。
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