重ねた嘘、募る思い
「陽どいて。そこ私の席」
「え、あ、そうだね。ごめん」
「真麻、ここに座って」
慌てて立ち上がろうとする陽を花音がそっと止める。
恋人同士がさまになってきているふたりを見るのはとってもうれしいけれど、今日はなんとなく胸が痛い。
仕事中に醍醐くんの姿を見たからかもしれない。
現在大学五年生の醍醐くんはポリクリと呼ばれる病院実習の真っ最中。
大学の附属病院だし、院内にいるのもその姿を見かけるのも至極当然のことなんだけど、白衣を羽織ったその背中を見るだけで過去の失態が思い出されてひどく居たたまれなくなる。
向こうは私のことなんて全く眼中にないのに――
花音の勧めるがまま拗ねた子どものように憮然として座ると、ごん、という大きな音とテーブルの揺れ。
足を組んだ瞬間膝をいささか強くテーブルに打ち付け、痛みよりもその音の大きさにびっくりして目を剥いた。
「今すごい音したけど……大丈夫?」
ご飯を盛りつけて私へ向けた花音が心配そうに私を見ている。
その左手の薬指に見慣れない指輪が光っていた。
「のん、その指輪」
「あ、これは……」
「陽くんがボーナスでプレゼントしてくれたんだって」
なぜか花音じゃなくママが答えた。
しかもうれしそうに顔を綻ばせて、まるでママがもらったみたいなはしゃぎよう。
当事者の花音も陽も照れくさそうに頬を染めて俯いている。