重ねた嘘、募る思い
 
 そして週明け。
 奇しくもその日は日勤だった。 
 せめて夜勤だったら会うこともなかったはずなのに。

 ポリクリ初日は学生がナースステーションに挨拶に来る。
 もちろん業務に支障をきたさないよう簡単なものだし、ひとりひとりが挨拶するわけでもない。
 それなのに、それだけのためにいつもよりメイクに時間をかけてしまった自分が情けない。どうせ仕事の時は後ろでひとつにまとめてしまう髪にまでブローを丹念にしてきてしまった。
 どうせ気づかれることも見られることもないのに。

「あれ、今日違わねえ?」
「なにが?」

 気づいたのはとなりに座ってカルテを見ていた循環器外科の医師で同期入職の青野遼平。
 同期といっても医学部卒で研修医期間もあるから年は私よりずっと上だけどタメ口。
 医者らしくない甘いマスクが患者さんにも人気がある。
 今年のバレンタインは患者さんだけでなくその娘さんとかにもたくさんもらったらしくお裾分けしてもらった。
 
「メイク。デート?」
「デートのメイクだったら仕事後にするでしょ?」
「へえ」

 意味深な視線が向けられ、いーっと歯をむき出しにしてみせるとくくっと笑われた。
 青野先生は挨拶をしている医学生たちの顔を目を細めて眺めているけどてんで興味はなさそうだ。
 自分が医学生の頃を思い出すなあとしみじみつぶやいているのが聞こえる。
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