重ねた嘘、募る思い
 
「この中から何人かここに入職するのかねえ」
「しないでしょ?」
「醍醐ってやつ、藤城と出身校一緒じゃね?」

 学生の簡易履歴を見ながら青野先生がぼそりと零した。

「そりゃ附属大出てるから」
「違う、高校」
「なんで私の出身校知ってんの?」
「だって俺ら同期じゃん」
「私、先生の出身校知らないけど」
「S高」
「うわ、県内一位。自慢?」
「そんなんじゃねえ」

 こほん、と師長の咳払いが聞こえ、私と青野先生をジト目で睨んでいるのに気づく。
 慌てて口をつぐんで真面目に挨拶している学生に視線を向けると醍醐くんと目があったような気がした。だけどそれはほんの一瞬で自然に逸れていた。
 もしかしたら醍醐くんは私のことすら覚えていないかもしれない。
 中学はマンモス校だったしいちいち同級生の名前なんて覚えてないよね。

 そう思ったらなんだか気が抜けてきた。
 今すぐに厚塗りした化粧も落としてしまいたい心境になる。
 
 こんな気持ちはきっと、ううん、絶対に私だけなんだろうな。
 
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