重ねた嘘、募る思い
5.仕事に集中できない!
「真麻ちゃん退院したらデートしてくれる?」
血圧を測定している時に不意にそう言ってきたのは鈴木さんという三十代半ばの患者さん。
「オレさあ、真麻ちゃんめっちゃタイプなんだよね」
「あ、ずるい。抜け駆けはよくないよ」
「だってオレの方が先に退院するし」
「じゃあさ、ボクも髪が生え揃ったらデートしてほしい」
そう言ってきたのは竹中さん、二十代後半の患者さん。
この部屋は男性二人部屋で比較的若い患者さん同士だからか話も合ってるみたいで楽しそうな雰囲気。
鈴木さんは心臓カテーテル手術で入院した循環器外科の患者さんで、竹中さんは交通事故による硬膜外血腫で緊急手術になった脳神経外科の患者さん。ふたりとも経過良好。
「時間ができたらね」
曖昧に答えると「本当に?」と声を揃えてる。
こういう時はいつもそう答えるようにしているけどどう対応するのがベストなのか未だよくわかっていない。
退院時メールアドレスを渡されたことも何度かあるけれど一度も返したことはない。
困るのはアドレスを聞かれる方。もちろん教えたりはしないからそういう患者さんがアドレスをおいていく。
そういう人は退院してからも我が物顔で病棟にあがってくるから厄介だったりするんだ。
まあ大体師長がうまく話をつけてくれて、お引き取り願うんだけど。