重ねた嘘、募る思い
陽さんが目を丸くしてわたしの顔をまじまじ見つめているのがわかる。
「のんちゃんっていうの? かわいい名前だね」
再びにこっと笑顔を向けた陽にそう言われ、わたしの中でぷつんと何かが音を立てた。
――名前はかわいいのにな。
あの時の……実際はあの時だけじゃないけれど、過去が鮮明に甦って来るようだった。
違う。そんな名前じゃない。かわいくなんてない。いやだいやだいやだ。そんな優しい目で見ないで。
「の、ノブコです! のん、だなんて可愛らしく呼ばれていますが、本名はノブコです! 普通でしょ?」
「ちょっ、のんっ?」
「まっ、真麻とは長いつきあいの友人ですっ。よろしくお願いしますっ」
腰を直角に曲げて頭を下げた。
この時点でわたしは二つも嘘をついてしまっていた。
名前も、そして真麻との関係も。
頭の上で大きいため息が聞こえる。絶対に真麻のものだ。
「そっか、じゃ、呼び方はのんちゃんと真麻ちゃんでいいかな?」
「いえっ! ノブって呼んでくださいっ」
がばっと頭を上げると、目をぱちくりさせた陽さんがうんと首を傾げてうなずいている。
真麻がじと目でこっちを見ているのはなんとなくわかっていたから怖くてそっちを向けなかった。