重ねた嘘、募る思い
「えと、ちょっとチクっとしますよー」
だから見られてると緊張するんだってば!
なんだかんだ考えながら用意してその場になってるんだけど、案の定醍醐くんは私が点滴を刺そうとしている高丸さんの腕をガン見しているし、出て行けとは言えないし。
幸いなのが高丸さんの血管が年齢よりも若めでよく見えるし弾力があること。
点滴の準備をして戻ってきたのが私ひとりだったから醍醐くんは驚いていたようにも見えたけど、ここはかっこよく決めたかったから冷静を装っていたつもり。
でも心臓はドクドクいってるし、緊張しまくっている。
そんな気持ちを醍醐くんに悟られたくないし、なにより患者さんを不安にさせないよう無駄に笑顔を振りまき、大丈夫ですよアピールも忘れない。
さっきの失敗を取り戻すためにもここは一発で決めたい。決めるんだ。
ぷつっと皮膚を貫く感触、少し針を進めるとカテーテルに血液が逆流してきた。よし、成功だ。
なるべく醍醐くんを見ないようにカテーテルに点滴をつないで落ちるのを確認した後、テープで固定をしてと頭の中でシミュレーションしつつ危なげなく事を進めることができた。
「看護師さん上手ねえ。全然痛くなかったわ」
「はっ、よかったですぅ」
高丸さんのお褒めもいただけて大満足。
ほっと力が抜けたのもつかの間。
「滴下調整」
ぼそっと醍醐くんの声が耳に入り、はっと我に返ると点滴がちゃんと落ちているのを確認した後クレンメを絞りすぎていた。
一時間で体内に入れる量が決まっているのにこのペースでは全然入らない速度だ。それを瞬時に計算した醍醐くんからの鋭いツッコミ。
ああ、醍醐くんの前で失態ばっかりしてる……せっかくうまくいったのに最後の詰めが甘かった。
きっとダメ看護師の烙印を押されてるんだろうな。
がっくりと肩を落として病室を後にした。