重ねた嘘、募る思い
「――え?」
思わず責めるような視線で師長を見てしまった自覚はあった。
だけど信じられなくて、だってこの封筒の文字は間違いなく小沼さんのもので私宛の手紙がここにあるのに。
全身が震えるのをおさえることができずにいると、師長が寂しげな目で私を見ていた。
「今ちょっと前に奥様がご挨拶にいらして……小沼さんが亡くなる数日前にあなたに手紙を書いていたのを見つけたって」
「う、そ」
「残念だけど……」
悲しそうな表情で僅かに笑みを浮かべた師長が私の肩に手を乗せた。
俯いた時に自分のナースシューズの先が少し汚れているのに気づく。そろそろ替え時かななんて上の空で思ってた。
そのまま食事へ行っていいと言われ、師長は私の背中をそっと押して一緒にカンファレンスルームを出た。
しばらく呆然とその場に立ち尽くしていた私を患者さんが怪訝な目で見て通り過ぎてゆく。
ちょうど患者さんも食事を終えられて下膳する時間帯。食後のお茶を買いに廊下へ出てくる人も多いはずだ。
俯き加減に廊下を足早に歩き、非常階段へつながる重い扉を開いて一気に階段を駆け上がった。
かんかんと響く足音と共に心拍数も徐々に増え、胸が軽く痛苦しくなった頃、屋上の入り口のある踊り場へたどり着いた。息は上がり、呼吸にあわせて自分の胸郭も激しく上下する。まだ四月前なのに額にうっすらと汗を感じ、はあはあという呼吸音がうるさく感じた。
だけどわざと大きく音をたてて呼吸をしながら必死でこみ上げてくるものを抑え込んでいた。