重ねた嘘、募る思い
数人の足音と共に男性の声が聞こえてきてはっとそっちを見た時、歪んだ視界に入ったのは白衣を着た醍醐くんだった。
「――っ!」
声にならない息を詰めた音を互いに発していたと思う。
眼鏡の向こうから覗く目が大きく見開かれ、すぐに逸らされた。
「あ、やっぱり食堂行こう」
「え、なんで。いきなり? 屋上で食べようって言ったの醍醐じゃん」
まだこの場所が見えていない位置にいる男子学生の声が聞こえてくる。
それを押し戻すかのように醍醐くんが私の視界から消えていった。
「急にうどん食べたくなって」
「はあ? せっかくパン買ったのに」
「ごめんごめん、好きなもの奢るから。A定でもB定でも」
「なんだよー変な奴だな」
どんどん笑い声と足音が遠ざかっていく。
もしかして醍醐くん……気を遣ってくれた、とか?
私が、ううん。実習先の看護師が泣いていたから?
わからない。だけど学生に泣いている場面を見られなかったことに安堵し、その場にしゃがみ込んでしまった。
醍醐くんの心遣いがうれしかったのともう二度と小沼さんに会うことができない寂しさがない交ぜになり、そのまま膝を抱え、声を殺して泣いた。