重ねた嘘、募る思い
どのくらい時間が経ったかはわからない。
ふと人の気配を感じて顔を上げようとした時、頭を優しく撫でられた。
――誰?
全身で驚きを表現してしまってまずいかなと思いつつ息を詰め、顔を埋めた腕の辺りで目を泳がせる。
「藤城」
この声、青野先生だ。
おずおずと顔をあげて気配のする方を向くと私の顔に近い位置にその存在を感じた。青野先生も同じようにしゃがみ込んでいる。
苦笑いを浮かべてぽんぽんと私の頭を撫でるその手はいつもみたいにからかってくる感じではない。とっても暖かくて優しい。
正直見られて恥ずかしい。もしかして泣いている理由もバレているのかもしれない。だけど涙は止まってくれなくて。
再び膝を抱えて顔を隠すと肩に腕を回されてまるで子どもをあやすように優しく何度もさすってくれた。それでようやく泣きしゃっくりを止めることはできたけど、涙は止まらなくて。
「ごめ、せんせ……誰かに見られたらまずいね」
「大丈夫、ここには誰も来ないから」
「え?」
嘘のように一瞬にして涙が引っ込んだ。
誰も来ないって……だってちょっと前に醍醐くん達学生が何人か来たのに。
「ど、して?」
「ああ、ここの真下の階段に『清掃中』の立て看板置かれてた」
それってトイレの掃除中に入らないように置くためのものでは?
なんでそんなものが階段の途中においてあるの?
「先生が?」
「まさか」
私がここに上がってきた時にはなかったと思ったのに。
「じゃ、なんで先生はここに?」
「俺とおまえは同期だろ?」
ニッと満足げに笑う青野先生が私の頬を軽くつねった。
腑に落ちなかったけど、青野先生にはなにもかもお見通しってことなのかもしれない。