重ねた嘘、募る思い
7.広がる波紋
その日は青野先生と飲みに行くことになった。
慰めてくれたお礼とでも言いますか、なぜかそういう流れになってしまった。
病院の最寄り駅近くにある和風居酒屋は青野先生の御用達。
ちょっと高級感のあるそのお店は入り口付近がカウンター席で、奥は全室個室の作りになっている。宴会席もあるのでいろんな病棟で忘年会や歓迎会で使われているらしい。
青野先生とふたりで来たのは初めてかもしれない。
何度か先輩や同期のナースを含めてその中に青野先生がいたことはあったけど。
掘り炬燵状のテーブルに向かい合わせに座った途端、青野先生が目を丸くして私を見た。まるで珍しいものをみたかのような感じに首を傾げると。
「藤城ってストレートだったんだ。髪」
仕事上差し支えない程度に染めた髪は根元が黒っぽくなってきている。気にしてはいたものの美容院に行く時間がなくて放置していた。肩を覆う程度の長さで仕事中はまとめてうなじの辺りでくるっと巻いてる。
「なんか、いいじゃん」
「?」
店員さんに渡されたおしぼりで手を拭きながら青野先生がほくそ笑んでいる。おろしたところ初めて見せたんだっけ。
お酌をしなくていいように青野先生は最初からビールをジョッキで、私はアプリコットサワーを注文した。
顔が派手だからか酒が強いと思われがちだけど弱い方だと自覚しているのでセーブするようにしている。