重ねた嘘、募る思い
「俺さ、今日誕生日なんだよね」
「えっ、知らなかった。おめでとうございます。じゃ、好きなもの注文して」
どっちにしろ昼間迷惑をかけたから奢るつもりではいた。
持ち合わせは大してないけどこの店はカードが使えるから大丈夫だろう。
「いや、それはいいんだけどさ。藤城にお願いがあるんだよね」
申し訳なさそうに眉を下げた青野先生がちょっとかわいく見えた。
人気があるのもわかるな。性格だっていい方だと思う。
からかわれる内容も嫌じゃない程度のもの。その線引きをわきまえている人だと思う。
「少しの期間でいいから恋人のフリをしてほしいんだよね」
「は?」
いきなりのことにびっくりしてそれしか言葉が出なかった。
今飲んでたら吹き出してしまっていたかも。
こんなことを頼めるのは私しかいないと深々と頭を下げられて、断るすべを見つけることなどできなかった。
「嘘を真実にしてもいいんだけど」
テーブルに肘をつき、長くてやや節ばった指同士を組ませてその手の甲に顎を乗せた青野先生がなんとなく満足げな笑みを称えているように見える。
今までの私ならそれでもいいって答えていたかもしれない。
青野先生のことは嫌いじゃないし、見た目いけてるし、話も結構合う方だと思うから。