重ねた嘘、募る思い
だけど、今はちょっと違っている。
重くならないよう口元にだけ笑みを浮かべて首を横に振ると、苦笑いで「了解」と返ってきた。
いろいろな口裏合わせとそれらしく見せるための演出として連絡先の交換をした。
考えてみたら同期でそこそこ仲はいい方だと思うのに、今までアドレス交換してなかったのが不思議なくらいだった。
「青野先生も大変なんだね」
「まあね。将来有望なもんですから」
嫌みのない、どこか冗談めかした口調の青野先生がけらけらと笑う。
「ところで先生いくつになったの?」
「二十八」
「適齢期だね」
「だからこういう話がひっきりなしにくるんだって」
心底迷惑そうな吐息を漏らした青野先生がビールを一気に呷った。
確かに恋する暇なんてないだろうけど、結婚は好きな人としたいよね。
でも恋人役を喜んで引き受けてくれる人は他にもいそうな気がするけど、頼みやすいと言われて悪い気はしない。
それにこのことは公にしないと約束してくれたし。
まあいいかと軽い気持ちで、循環器外科部長の娘との縁談を持ち込まれた青野先生の偽の恋人役(期間限定)になった。