重ねた嘘、募る思い

「真麻、ちょっといい?」

 部屋の扉がノックされてすぐに花音が入ってきた。 
 仕事帰りのまま立ち寄ったって感じ。コートを着たまま上がり込んでくる。
 最近花音は眼鏡を縁なしのものに替えた。
 化粧も以前よりちゃんとするようになっている。ナチュラルメイクがうまくなったと思うし、とってもきれいになった。恋をすると変わるんだなって全身で証明しているかのように。
 それになんだかうれしそうな顔をしている。なにかいいことがあったのかもしれない。

「どうしたの?」
「今ね、駅前で醍醐くんに声かけられたの」
「え?」
「中学の、確か三年の時のクラスメイト」

 覚えてるよね、とニコニコしながら聞いてくるからうんと答えるしかなかった。
 今、私はどんな顔をしているのだろうか。
 花音がしきりに話を続けているけど全然頭に入ってこない。
 醍醐くんが花音に声をかけたというフレーズが頭からこびりついて離れてくれなくて。
 
 花音には声をかけるんだ。
 その事実が思ったよりもショックだった。

「聞いてる? 真麻」
「えっ? あ、うん」

 嘘、本当は全然聞いてなかったのに。
 不思議そうに花音の顔がしかめられ、小首を傾げながら私を見つめている。  
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