重ねた嘘、募る思い
「青野ドクターにコールして! 履歴に番号あるから!」
携帯を無事にキャッチしてくれたから醍醐くんに指示だけしてすぐに倒れている女性に意識を向ける。
大きな声で呼びかけても反応なし、頸動脈に手を当てるも触知しなかった。
人目に晒すのは本当に心苦しい。だけど今はそんなこと言ってられない。
「他の学生達は見えないよう可能な限り隠して!」
女性を仰向けにして馬乗りになりながら指示を出すと「はい!」といい返事が聞こえた。
自分達のコートを脱いでカーテン状に覆い、遮るようにしてくれているのがわかった。全く見えなくなるわけじゃないけれど多少は隠されているはずだ。
女性のピンク色のダウンジャケットのボタンを荒々しく引っ張りはずして中に着ていたブラウスは申し訳ないけど引きちぎって胸部をさらし出す。
胸に耳を当てても拍動を感じない。すぐに胸骨圧迫を開始する。
これはとあるアニメのテーマソングのリズムに合わせるとうまくできると青野先生に教わっていたから頭の中でそれを思い浮かべて力一杯押す。
こんな時髪を束ねていればよかったと後悔するのだが遅い。この手を休ませるわけにはいかない。早く先生来て!
祈るような気持ちで必死に続けていると汗をかいてきてしまった。女性の上にそれが落ちるけど構っていられない。
「代わる」
頭の上でそう聞こえた。