重ねた嘘、募る思い
それは聞き覚えのある声で、急に安堵が押し寄せてきた。
代わろうとしたその時、ストレッチャーが近づいてくる音が聞こえてくる。退いてくださいという声の主がまた聞き覚えのある青野先生のものだった。
循環器内科の先生も一緒にいる。青野先生が呼んでくれたのだろう。
「藤城、よくやった」
ぽんと背中を叩かれた後、やや強引に後ろから抱えるように立ち上がらされ、すぐに女性から身体を引き離された。
背中を預けたのは青野先生の胸。
ほっとして足下がふらつくのをしっかりと支えてくれていた。
女性がストレッチャーに乗せられてその場を去っていくのをただ呆然と見つめてしまう。
履いていたヒールは脱げ、足に地面の感触を感じる。きっとストッキングが破けているに違いない。
ふわりと肩から白衣が掛けられて我に返る。
「あ、りがと。大丈夫」
「大丈夫じゃない。スカート破けてる」
耳元でこそっと青野先生が囁いた。
そうだ、今日は送迎会のためにブラウスにタイトスカート姿だったのをすっかり忘れていた。
きっと女性に馬乗りになった時後ろのスリットが切れたんだ!
恥ずかしい……穴があったら入りたい! なくても穴を掘って入りたい!
恥ずかしさと安堵のあまりじわっと涙が滲んで少しだけ視界がぼやける。
そんな私に青野先生が気づいて頭を優しく撫でてくれた。
「よく頑張ったな、偉かった」
くしゃくしゃと髪を乱され、いつもだったら抵抗するところだけど今日はその手の温もりとねぎらいの言葉がうれしくて、素直に受け入れていた。
いつの間にか目の前の人だかりもなくなり、私は青野先生に肩を抱かれて病院へ向かった。