重ねた嘘、募る思い
9.最初で最後のデート
今日たまたま休暇を取っていた花音が病院まで私の服と下着を持ってきてくれることになった。
ただし夕方になるけどと言われ一も二もなく了承する。
持ってきてくれるだけで十分だった。家に戻って着替えてまた病院に向かったら絶対に送迎会間に合わないもん。
病棟に上がってくるのは嫌だから病院前でとお願いされ、十七時に待ち合わせになった。
師長に訳を説明して少し早く仕事を上がらせてもらえたので白衣にカーディガンを羽織って病院の通用門で待つことにした。
うちの病院はワンピースタイプとパンツタイプのどちらかから白衣を選ぶことができる。
私はパンツを愛用しているんだけど、患者さんによってはワンピースの方が看護師さんらしいからそっちにしてと懇願してくる不埒な輩もいる。
手術後の患者さんをストレッチャーからベッドへ移す時もパンツの方がいいし、特に今は膝が擦りむけているから隠すのにもちょうどいい。
外は春の風になっているけどまだ少し肌寒い。
カーディガンの前をしっかりかき合わせ、小走りに向かうと桜の花びらがわずかに舞っているのを見て中学の卒業式を思い出してしまう。
あの日もこんな風に桜の花びらが舞っていた。
みんなで卒業パーティーをかねてカラオケに行こうって話になったのに醍醐くんは聞いてないかのように去って行ったっけ。
遠ざかっていくその背中をかき消すような桜吹雪。
行かないで、そうひと言言えればよかったのに。
そして今、目の前にその時と同じ光景が広がっていることに息を呑んだ。
通用門の前で花音と醍醐くんが話をしている。
あの背中は間違いない。ずっと私が目で追っていたものだから。