重ねた嘘、募る思い
「あ、真麻」
私がいることに気が付いたのは花音。
こっちに背中を向けている醍醐くんがゆっくりと振り返り、うれしそうに緩んでいた笑顔が一瞬にして険しいものに変化する様を垣間見て胸が冷えた。
私は邪魔者ですか、そうですか。
そんな気持ちを表さないよう醍醐くんの存在を無視して花音に近づいて行く。
「ありがとう、助かったよ」
「ううん、たぶん言われたもの全部持ってきてるはずだけど確認してね」
花音のことだから抜かりはないと思うけど、手提げ袋を渡されその場でざっと確認する。
案の定、頼み忘れていたハンカチも入っていて助かった。汗を拭って化粧が付いちゃってたから。
「ばっちり、本当にありがとう」
「ううん、これから陽さんのところに行くからちょうどよかった」
大きめのショルダーバッグを抱え直した花音がにっこり微笑む。
本来ならふたりで休みを取ってデートの約束だったけど、陽のお店の子が体調不良で休んだから急遽出勤になったと話していた。
いつもより大きめのショルダーバッグを肩にかけているところを見ると、これから陽の家に泊まりに行くんだろうな。
そんなこと全く知らない醍醐くんはなぜか気まずそうに突っ立っている。