重ねた嘘、募る思い
ライブの日当日。
日勤を終えた私は即家に帰ってシャワーを浴び、どたばたと慌ただしく準備をしていたら夜勤明けの母親に「うるさい」と怒られた。
だけど気にしてる暇はない。家を飛び出し、浮かれ気分で駅に向かって走り出す。
ライブ会場だと人が多くて会うことができないかもしれないから家の最寄り駅で待ち合わせをした。
券売機の前に立っている醍醐くんは背が高いからすごく目立つ。
カーキ色のスプリングコートに紫と白と紺の大きめチェックのニット、キャメルのブーツカットに茶色の革靴。なんだかすごいイケてる男子っぽい。私服がこんなにおしゃれだと思わなかった。
私はライブで動けるようにモッズコートに中は赤のチェックワンピと履き慣れたブーツで甘辛に決めてみた。
そして私にしては冒険してしまった髪型は、中学時代によくしていたポニーテール。
そんな私を見た醍醐くんは一瞬目を大きく見開いて、すぐに穏やかな顔つきになった。
合流するとどちらもなにも言わず、改札の方へ向かっていく。
その足取りはとてもゆっくりで、まるで私の歩調に合わせてくれているかのようだった。
それがくすぐったくて、少し切ない。
電車の中は部分的に席が空いていたから分かれて座った。
バッグから文庫本を取り出して読んでいる醍醐くんを私はなにもせずじっと見つめていた。
こんなふうに見られているとは全く気付いていない醍醐くんは欠伸を噛み殺したり時折目を閉じたりしている。
疲れているはずなのに来てくれて本当にうれしかった。