重ねた嘘、募る思い
ライブ会場はやっぱり混んでいて、グッズを見に行きたかったのに入場規制していて並んでいたらライブが始まってしまうから断念した。
はぐれても入れるようチケットを渡しておこうと思ったんだけど、いいと言われて結局大した会話もしないまま入場した。
私達が受け取ったチケットは花音が取ったもの。
一階席の端の方でステージが近く思えた。花音と陽はどの辺にいるんだろう。
入場した途端、会場の熱気がすごい。ライブ開始までの緊張感が伝わってくるようだ。
辺りを見回すと女性ペアが断然多いけど、カップルもいる。男性ペアもちらほらいるかなって感じ。
ちらっと醍醐くんを見ると、席に座っている。
ライブスタートまでくつろぐつもりなのかなと思いきや、照明が消えて周りがわき出しても醍醐くんは立とうとはしなかった。
本当ににstartlineが好きなのか疑問に思ったけど、人と人の隙間を縫うようにしてオペラグラスでステージを見ている。
背が高いから後ろの人に気を遣って座ってるとか?
その横顔を見ると真剣そのもので頬は若干紅潮しているように見える。
ひょっとして興奮しているのかもしれない。こんな醍醐くんを初めて見た。
ノリのいい曲になると醍醐くんは立ち上がって少し屈み気味でステージを夢中で見ていた。
周りにならって手拍子をしてみたり横に揺れてみたり。歩く時よりも大きく左右に揺れているからきっとノッているんだと思う。
ふと醍醐くんがこっちを見て、自然に目が合う。
どうせすぐに逸らされるんだろう。ステージの方を向こうとした時、醍醐くんの口元に笑みが広がっていることに気づいた。
「楽しいね」
聞き逃しそうになったその言葉を寸前で私の耳が拾い上げた。
二度見するように醍醐くんを見ると、一瞬目を大きく開いてから再び満足げに細められる。
お願い、これ以上知らない醍醐くんを見せないで。
もう忘れるんだから知らないままでいい。
だから私を見て笑ったりしないでよ。