重ねた嘘、募る思い

 ステージの照明がいきなりオフになり、紘くんだけに光が当てられる。
 すぐにデビュー曲『オンリーワン』のイントロが流れ出し、会場中が歓喜の声でざわめき出した。

「これ、のんの好きな曲」

 こそっと醍醐くんに耳打ちすると、ちょっと驚いたようにこっちを見た。

「僕も好き」
「そうなんだ」

 なんだかすごくうれしそう。
 だから私も好きだよとは言えなかった。

 世界中に数え切れないくらいの人がいるけど、自分にとってのオンリーワンは君だよというメッセージソング。
 ありきたりなのかもしれないけれど、紘くんの声が僅かに甘みを醸し出してじわっと胸に広がるこの曲は一番ファンに親しまれていると思う。

 オンリーワンが終わるとメンバー四人が観客に大きく手を振りながら退場して行った。
 楽しい夢のような時間はあっという間に終わってしまい、すうっと現実に引き戻されていく。
 だけど会場の熱は収まるどころかヒートアップして、ファンの気持ちが団結し合い、激しい「アンコール」がこだまする。
 なんの打ち合わせもないのに端の方からウエーブが巻き起こり、ずれないよう息を詰めてタイミングを合わせる。しかもまさか醍醐くんまでやると思わなくてびっくり。
 席に座った途端、自然に視線が絡み、笑い合う。
 こんなふうにしたかった。中学の頃からずっとこんなことだけでよかったはずなのに。
 私が自分の気持ちにもっと早く気づくことができていたのなら、花音のことを口実にしたりしないで正々堂々とアタックできたのかもしれない。
 今となってはなにもかもが遅いけど、こうしてひと時だけでも一緒に楽しめたことは忘れないように胸に刻んでおこう。
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