重ねた嘘、募る思い
ライブの熱冷めやらぬまま会場を後にする。
このまま駅まで人波に流されるのかと思うとうんざりするけど、まだ興奮していた。
無言のまま少しずつだけど確実に駅に向かう。
あと少しでこうして醍醐くんと一緒にいる時間も終わりを告げる。もう駅も見えてきた。
もの悲しさはたぶんしばらく消えないと思う。
大学時代、同じ医学部でも校内ですれ違うことすらほとんどなかった。
私が就職した後はほぼ丸一年その姿を見ることはなかったけど普通でいられた。
なのになんで今はこんなに離れたくないって思ってしまうのだろうか。
「あの時の……」
頭上から醍醐くんの声が降ってきて見上げると、前を向いたまま話している。確かに今よそ見してたら前の人に確実にぶつかるだろう。
だけど周りが騒がしいのと醍醐くんの声が異様に小さくてよく聞こえない。
「なに?」
「君が言ったこと……」
「え?」
「――真麻ちゃん」
行列している券売機の方から名前を呼ばれ、そっちを向くとえんじのニット帽に黒縁眼鏡、マスク姿の男の人が手を振っていた。
声とその怪しい風貌ですぐに誰かわかる。
改札に真っ直ぐ向かう行列を抜けて券売機とみどりの窓口の間の柱の前にぽつんと立っている陽に近づくと、醍醐くんもついてきてくれた。
そこに花音の姿はない。あれ、どこに行ったんだろう。