重ねた嘘、募る思い
仕事を終え、携帯を握りながら更衣室を出る。
昼休みから醍醐くんの名前と電話番号を何度も画面に表示させては消しを繰り返していた。
たった一回通話ボタンを押す勇気もないなんて情けないけど、どう話を切りだしたらいいものやら。
いつからこんなに臆病者になったのだろうか。
醍醐くんへの想いは結局卒業なんてできず、心の中にしまっておこうと決めたはずなのに……なにかしら行動を起こすことで失うのが怖いんだ。
「ばっかみたい」
つい独り言が漏れてしまう。
自嘲しながら職員用の通用口を出ると、そこにはまさかの醍醐くんが立っていた。
一瞬見開かれた目が私の姿を捉えると、まるで待たされて怒っているかのような顔でじろりと睨みつけられる。
「な、なに?」
「ちょっと話があって」
「なんっでここに……」
「今日は出勤してるって聞いたから」
「誰に?」
「いいから来て」
私の質問は華麗にスルーで、醍醐くんが背中を向けて先を歩き始める。
それが相変わらずの風に揺れる柳の木のようで泣きたくなったけど、別の病棟の看護師に冷やかされるような笑みを向けられているのに気づいて現実に引き戻された。
とにかくここにいると好奇の目で見られ続けることは必至なので小走りで醍醐くんについて行った。