重ねた嘘、募る思い
振り返った醍醐くんの表情からは怒りの感情しか読みとることができず、言葉を失ってしまった。
はっと我に返ったような醍醐くんの薄い唇がきゅっと真一文字に結ばれる。
呆然としている私を見て、その表情がクッと歪んだ。
「……怒鳴ったりしてごめん」
僅かに視線を彷徨わせ、姿勢を正して座り直した醍醐くんが自分の太腿に両手を乗せて深々と私に頭を下げた。
悪いのは私のはずだ。
醍醐くんが言っていることは間違っていない。茶化したことには変わらなかったから。
だけど私の口からは素直に謝罪の言葉が出ることはなかった。ただ無言で首を横に振り続ける。
「あの時、君が言った言葉をずっと忘れられなくて……藤城さんは覚えてないかもしれないけど」
この前の帰りに言い掛けたことだろう。
ようやく聞くことができるけど、怒鳴られたことが尾を引いていて落ち着かなかった。あんなにも声を荒らげた醍醐くんは初めてで、戸惑いが隠しきれない。
「一緒に勉強してた時……夢を聞かれて答えたら、藤城さんこう言ったんだ。ひとつの身体がふたつになる大事な生命の誕生をお手伝いをする先生になるんだねって。それを聞いた時、この辺りが打ち震えたんだ」
醍醐くんの意外と関節がごつごつした掌が自分の胸元をぎゅっと握りしめた。