重ねた嘘、募る思い
「最初は親の跡を継ぐことしか考えてなかったけど、あの言葉のおかげで僕は本気で産婦人科医になろうと思うことができた。あとこの前のライブで紘がプロポーズのために作った曲聞いて思ったんだ。ふたつの道を重ね合わせようって真逆の意味だけど、藤城さんのあの時の言葉とシンクロしたように思えたんだ」
きゅっと細められた目が優しいものだった。
そんなことをあの時の自分が言ったのも、その言葉が醍醐くんの中にずっと残っていたことも信じられなくて放心状態になってしまう。
あんなに産婦人科医になる夢を熱く語った醍醐くんが本当は迷っていたなんて全く気づかなかったから。
じっと私の目を見つめる醍醐くんの顔が真剣なもので思わず逸らしたくなる。
だけどできないまま、目を瞬かせて次の言葉を待っていた。
「あの時から、僕は君のことが好きなんだ」
「――っ」
「信じてもらえないと思うし、迷惑かもしれないけど」
「嘘!」
醍醐くんが私を好きなんて信じない。
だってあり得ない。あり得ないもん。
醍醐くんの目がこれでもかと言うくらい大きく見開かれ、何度も瞬きを繰り返している。
そして間を取るかのように眼鏡のブリッジの部分を人差し指でくいっとあげてズレを直した。そんな仕草も昔から好きなものだ。
「だって醍醐くん、私のこと嫌いって……」
「あ」
「それにメールは送れなくなるし、高校ではずっと無視されてたしっ」
「それは……」
「それにそれにっ、病棟でも私のことなんて知らんぷりしてっ」
取り乱しているのはわかっていた。
だけど思い出すのは醍醐くんに拒絶されたこととか知らんぷりされたことばかり。今の醍醐くんの言葉を否定することしか頭に浮かばなかった。