重ねた嘘、募る思い

 醍醐くんと花音が偶然駅前であった話は聞いていた。
 だけどその時どんな話をしていたのかまでは聞いていない。

「僕が藤城さんのことを好きだと伝えたら、協力するって長田さんが言ってくれて……でも藤城さんはドクターとつき合ってるからって言ったんだけど当たって砕けろって背中を押された」

 まさかあの花音がそんなことをしていたとは。
 それでstartlineのライブのチケットがいきなり出てきたってことなんだ。ようやく納得した。
 さっきから驚くことばかりでなんだかすごい疲労感が蓄積している。
 だけど醍醐くんは花音のおかげでぶつかる覚悟ができたとすがすがしい表情をして見せた。  

「あ、もうひとつ聞きたいことがあった」

 思い出したように醍醐くんが聞いてきたのは、階段の踊り場で泣いていた時のこと。
 あの状況で駆け寄ることも理由も聞くこともできなくてと口ごもりながら、階段の途中にトイレの清掃の札を置いたのは自分だと教えてくれた。
 青野先生に私がそこで泣いてることを伝えてくれたのも醍醐くんだったというオチまでついていたけど。

「青野先生と喧嘩でもして泣いていたのかと」
「仕事中にそんなことで泣かない!」

 泣いていた理由を話すと醍醐くんはうなり声をあげた。
< 197 / 203 >

この作品をシェア

pagetop