重ねた嘘、募る思い
目の前に手が差し伸べられる。
この手をとったらいいのかわからなかった。
だって醍醐くんは完全にお別れの握手のつもりで手を出しているようにしか思えなくて、とったらこれで終わってしまうような気がした。
ベンチに座ったまま醍醐くんを見上げると、苦笑いを向けられる。
震える手をそっと伸ばし、醍醐くんのそれに重ねると一度だけきゅっと緩く握りしめられた。
するりと離れる温かい手。
その温もりを失いたくなくて。
残された手をぎゅっと握りしめて決意を固めた私は、勢いよく立ち上がって醍醐くんの首筋に抱きついていた。
「――え?」
「好き」
醍醐くんの耳元に小声で囁く。
すると醍醐くんがひゅっと息を吸い込んだ音が私の耳に届いた。
「う、そだろ?」
「嘘じゃない」
「だって……」
明らかに動揺している醍醐くんの耳がさっきより真っ赤になっている。
ゆっくりと身体を離して向き合うと、耳だけじゃなく顔全体が赤い。まるでよく熟したリンゴのよう。
醍醐くんが素直になったように、私もならなければいけない時がきた。
もう自分の気持ちを隠し通す必要もない。偽りの自分の仮面を脱ぎ捨てよう。
「ずっとずっと醍醐くんが好きだった」
目頭にギュッと力を込めた醍醐くんの目が私を射るように見つめている。
その目はまるで『なんで今まで言ってくれなかったの』と物語っているようにも見えたけど、醍醐くん自身もその思いを隠していたんだからお互い様だよね。
唇をわなわなと震わせて、ようやく醍醐くんが言葉を発する。
「……いつから?」
「たぶん、最初から」
そう答えて笑ってみせると醍醐くんの強ばった表情が泣き出しそうな勢いで歪められる。
だけど目と唇はうれしそうに弧を描いていた。
ゆっくりと近づいてくる醍醐くんの薄くて形のいい唇を見ながら私は静かに瞼を閉じる。
触れるだけのぎこちないキス。
初めての時よりもずっと緊張して、だけどすごく待ち遠しくてどきどきした。
そしてなにより、幸せだと感じたんだ。