重ねた嘘、募る思い

 ふたりきりの時間が息苦しい。
 きっと陽さんも同じように感じているはず。そうじゃなかったらこんなに沈黙の時間が続くわけがない。

「わ、わたしお茶買ってくる」

 なんとかこの気まずさから逃れようとその場を離れようとした時、遠くから真麻がこっちに向かってくる姿が見えた。かわいいから目立つ。 
 そんな真麻を陽が優しい眼差しで見ているのに気づき、言いようのない胸苦しさを覚えた。
 こんな感覚は初めてかもしれない。

「そう、じゃ悪いけど少しゆっくり目に戻ってきてくれるかな」

 ――――とくん。

 胸の鼓動をはっきりと感じた。
 同時にじわりと波紋が広がるような痛みを伴う。
 
「あっ、うん。わかった!」

 なぜか急に大きい声が出てしまった。
 今まで敬語のスタンスを崩していなかったのにいきなりタメ語。
 陽さんが言った言葉の意味を一瞬で把握して、わたしはトートバッグの肩紐をぐっと握りしめた。

「ただいまあ。のん、どうしたの?」
「おかえり、ちょっと暖かいお茶買ってくるよ。寒いでしょ?」
「あっ。そうだね。今自販の方に行ったのに、気が利かなくてごめん」

 ぺろっと舌を出す真麻は本当にかわいくて。
 わたしはいかにも急いでいるかのような演出をしながらその場を去った。

 やっぱりわたしは邪魔者だったよね。何も話さないでただくっついているだけ。つまらないよね。 
 わかっていたことなのに、なんで涙が出るのかわからなかった。

 そのまま逃げるようにT-Bランドをあとにした。
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