重ねた嘘、募る思い
4.怒る真麻とわたし
どうやって帰って来たかは覚えていない。
気づいたら自分の部屋の布団で丸まって寝ていた。むっつりとふくれた真麻に揺り起こされるまでは。
「のんがどういうつもりか知らないけどさ、これ預かったから」
その手には小さなメモ紙みたいなものが握られていた。
腫れぼったい目をこすりながらそれを見るけど部屋の電気が逆光になっているし眼鏡もかけていないからよく見えなかった。
それに顔を近づけて目を細めると、数字と英数文字の羅列が二行になって記されている。
「なに、これ?」
「陽の連絡先」
むくりとベッドから起き上がって真麻につき返す。
「真麻にでしょ?」
「よく見なさいよ。ノブちゃんへって書いてあるでしょ。まあ、私ももらったけどさ。それにあんなふうに急に帰られたら陽だって心配するでしょ? のんがこんな常識ない行動をするなんて思わなかった」
確かに真麻が指差したところには『ノブちゃんへ』と少し乱れた字で書かれていた。真麻の文字ではないことは一目瞭然だ。
だけど陽がわたしの心配なんかするわけがない。向こうが遠まわしにだけどふたりきりにしてほしいって言ったんだ。
でもそれを言ったらきっと真麻は陽さんに対して嫌悪感を抱くに違いない。
自分のいないところでそういう話し合いがなされてふたりきりになったと知ったら真麻は怒りの矛先を確実に陽さんへ向けるだろう。長年のつき合いだからわかるんだ。