重ねた嘘、募る思い
5.身勝手な陽さんとわたし
「え?」
社でもわたしに触れる人なんていない。女性社員同士でもそんな親密な仲の人はいないし、男性社員はあり得ない。
思わずいやな顔をして振り返ってみると、そこに立っていたのはニッコリと微笑んだ陽さんだった。
「やっぱり、ノブちゃんだ」
「……」
「大通りの信号の辺りでそうじゃないかなって思ってさ」
陽さんの吐息が白い。
顎の辺りまで巻かれたボーダー柄のマフラーもその長い髪の毛もコートも見覚えがあった。あの日と全く一緒。
なんてことだろう。こんなところで再会するだなんて夢にも思わなかった。
自分の意思とは裏腹に加速してゆく鼓動を感じて落胆した。これじゃまるで再会したことがうれしいみたいじゃない。
「連絡待ってたのに全然くれないんだもん。よかったよ、会えて」
満足げに微笑む陽さんとは真逆の感情を全面に表していたと思う。
だけどそんなわたしを見ても陽さんは顔色ひとつ変えることなくニコニコしていた。
よくない。会いたくなかった。こんな偶然はほしくなかった。
その手は離れようともせずにわたしの肩の上に置かれている。しかも職場の近くだから知り合いと会ってしまうかもしれないのに、このシチュエーションはいただけない。