重ねた嘘、募る思い

「あいつと別れたから、イブのチケット不要になった」
「えっ? ほんとに?」

 部屋に入るなり、真麻がむくれてわたしのベッドに座りこんだ。
 今から寝ようとしているのに、わたしのポジションを取られてしまったのでしょうがなくラグの上に腰を下ろす。

「チケット今からキャンセルできるかな?」
「わかんないわよ……」
「うーん、そうだよね。困ったなあ。イブまでもう一週間切ってるもんね。あーあ」

 パタリとベッドに倒れこんだ真麻が大きなため息を漏らした。
 本来だったらわたしがそうしたいくらいだ。

 真麻が言うイブのチケットとは、有名テーマパーク『T-Bランド(略称)』のもの。
 わたしの会社の社員販売で購入予約したもので、イブのチケットはなかなか取れない中ようやくゲットしてもらったものだ。
 それもどうしても彼氏と行きたいという真麻の願いを叶えるため、チケットを扱う労務厚生課に何度も足を運んでなんとか予約の権利を取得できたものだったのに。

「イブチケットなら誰かほしいって人いないかなーったく、あいつが浮気なんかしなきゃなー」

 あーあと伸びをしながらベッドから起き上がった真麻はかったるそうにわたしの部屋を出て行った。
 まったく悲しそうでもない真麻のその後姿を見送って今度はわたしが大きくため息をつく番だった。


 
 真麻は美人で男性受けもいいけど、なぜか男運が悪い。
 今回も多分真麻の仕事が忙しすぎてなかなか会えない彼氏が一度の過ちで浮気してしまったんだろう。大体いつもそのパターンだからわかる。
 真麻に「別れる」と言われた歴代の男達は口を揃えて「悪かった。やり直そう」と言う。それを許すほど真麻は甘くないし、選ぶ権利もある。きっぱりさっぱり別れてしまうのだ。

 それにしてもチケットどうしよう。明日受け取りに行く予定だったのに。
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