重ねた嘘、募る思い

「ノブちゃん?」

 その名前で呼ばれ我に返る。
 陽さんはわたしが一瞬口元に笑みを浮かべたことに気づかなかったはず。

「人違いです。離してください」

 しれっとそう告げると陽さんは目を丸くして何度も瞬かせた。
 目の前のお店に入っていこうとする人がわたし達を怪訝そうな目で見ているのがわかる。
 入口前でこんなふうに押し問答をしていたら迷惑だ。きっと入りにくいはず。
 お茶は諦めて早く帰ろう。
 一向に外されない手を肩をまわすようにして拒絶し、改札口の方に向って歩き出す。この駅は改札口まで距離があるのが難点だ。入ってしまえばかわせるかもしれないのに。

「待ってよ、ノブちゃん。何言ってるの?」

 後ろからそんな声が聞こえてきた。
 足音でついて来ているのもわかる。それを無視して先を急ぐと前に回られてしまった。
 そんなことをされたらわたしの足だって止まるしかない。そのまま突き進んだら陽さんの胸にぶち当たるだけだもの。
 わずかに眉をしかめた陽さんがわたしの顔を覗き込む。
 悔しいけれどやっぱり紘くんに似ている。
 見ていたい気持ちを抑え、拒絶の意味を込めて思いきり視線を逸らした。

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