重ねた嘘、募る思い

「ねえ」
「人違いです」

 視線を背けていたのにまたそっち側から覗き込まれて反対側を向くと壁際のポスターが目に入った。
 それは奇しくもあのT-Bランドのものだった。
 陽さんの横を通り抜けようとすると、目の前に長い腕がすっと伸ばされて行く手を阻む。

「ノブちゃん、ねえ。どうして?」
「人違いだと言ってます」
「人違いじゃないよ。僕は一度見たら顔忘れないし。一緒に遊んだよね、イブの日。このテーマパークで」

 やっぱり陽さんもポスターに気づいていたらしい。
 クリスマスイルミネーションイベントが終わり、ニューイヤーパレードと書かれたポスターを指差している。

「真麻ちゃんと三人でさ」
「っ!」

 真麻の名前を出されて陽さんがなにをしたいのかがわかった。
 陽さんは真麻と連絡を取りたいんだ。
 だけど肝心の真麻から連絡が来ないから、たまたま見かけたわたしに仲を取り持ってほしいと思っているに違いない。
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