重ねた嘘、募る思い
「ノブちゃん」
「しっ、失礼ですけど……わたし、ノブちゃんじゃありませんからっ」
陽さんが目を丸くした。
進行方向を塞がれ、仕方なく元来た道を戻ることに決めた。
本名を教えていなくてよかった。心からそう思った。
このままついてくるようだったら警察へ行こう。この近くに派出所があったはずだ。人違いと言ってるのにこの人に付きまとわれて迷惑ですって言おう。
いざとなったら本名の書いてあるものを警察に提示すればいい。そうすればわたしの味方になってくれるはず。
自然に早足になる。それにあわせるように陽さんの足取りも速くなってついてきているのがわかった。
「待ってよ、ねえ。話しようよ」
わたしの左斜め後ろから陽さんが声をかけてくる。
早歩きをしているから少しだけ息があがっているわたしとは違って全く平気そうだ。
今度は下手にわたしの肩を掴もうとしていないのがわかる。掴んだら大声を上げてやろうと思っているのにそんな気持ちもばれているのだろうか。
「ね、なんで避けるの?」
「あ、あなたのことなんて知りませんから」
真正面を向いて派出所だけを目指して進む。
自分の吐息が白く舞い上がるのがわかる。だけど早歩きをしているから少しずつ身体が暖まってきた。
「じゃ、オサダカノンさんって呼べば止まってくれるの?」
――――!?