重ねた嘘、募る思い

 目を瞠ると、ニッコリと裏表のなさそうな笑みが返って来た。
 だけど絶対裏だらけだと思う。見た目に騙されちゃいけない。思ったより意地悪な人だ。
 しかも携帯にコールしろだなんてこっちの番号が通知されてしまうじゃない。メールアドレスなら直ぐに変えられるけど番号は簡単に変更できないことをわかって言ってるんだ。

「ほら、準備いいよ」
「……知り、ません」
「まだシラを切る気?」
「……ほっ、本当に知らないです。番号」

 ちらっと様子を窺うと、ふーんと小さなため息を漏らした陽さんの手のひらがこっちに向けられた。

「携帯出して」
「え」
「時間ないんでしょ? ここで押し問答してたら帰れなくなるよ。いいの?」

 ぐっと息を詰まらせ、それ以上言葉が出なくなってしまう。
 コートのポケットからしぶしぶと携帯を出し、その大きな手のひらに乗せるしかなかった。

「僕の名前、知ってるよね」
「……」
「ねぇ」

 わたしの携帯を慣れた手つきで操作しながら陽さんがこっちに視線を向ける。
 前髪で隠れ気味な双眸がじっとわたしの嘘を見透かすようだった。
 諦めモードで力なくうなずくと、満足そうにうなずき返された。
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