重ねた嘘、募る思い
「ねえ、僕の名前言ってみてよ」
こっちを向かず画面を見ながらそう言われ、心の中でため息を漏らす。
もう知らないふりはできない。わたしの負けだ。しかも完敗。白旗を上げるしかない。
「陽……さん」
「やっぱり知ってるんじゃない。なんでさっきは知らないなんて言ったの?」
「お、お願い。携帯、返して」
やっとの思いでそう告げると、陽さんのポケットから携帯の着信音が聞こえてきた。
すぐにその音は消え、わたしの携帯がこっちへ向けられる。それをひったくるようにしてすぐにポケットにしまった。
「それ、僕の番号だから登録しておいて。こっちも登録しておこうっと。名前はのんちゃんでいいよね」
ニッと笑みを向けられて居たたまれなくなる。
その名前で呼ばないでほしい。嫌いなんだから。
ふるふると首を横に振るけど、陽さんはお構いなしで自分の携帯をいじっている。しかも小さな鼻唄混じりで。
なんだか挑発されているようにしか思えない。
だけど嘘がばれた手前、何も言い返すことができないわたしは唇の内側をぐっと噛み締めることしかできなかった。