重ねた嘘、募る思い
翌日の昼休み、職場七階の労務厚生課に行くとチケットのキャンセルは受け付けていないとあっさりと言われてしまった。
まあ当然だよね。だってイブまであと五日。今更購入希望募ったとしてもみんな予定だって決まってるだろうし。
「長田さん、デートキャンセルされちゃったの?」
「違うんです。これは友人ので……彼が急に都合つかなくなっちゃったらしいんです」
興味深々顔の窓口の女子社員が「そうなんだ」と目を丸くした。最初からわたしのものだなんて思ってないでしょうに。
それに彼氏と別れたとは言いづらかった。何となく身内の恥を晒すようで。
「困ったわね。誰か他に行ける人いないの?」
「いいです。わたしが友人と行くことにします」
もうそれしか手は無いだろう。真麻はイブの日夜勤明けだったはずだ。
休みを取りたかったけど新人だから取りづらくて明けになってしまったと文句を言っていたのを思い出す。
そのまま彼氏といくはずだったテーマパーク。今年はわたしで我慢してもらうしかなさそうだ。
労務厚生課の窓口の奥のほうでくすくすと笑う声が聞こえてきた。きっとわたしのことを笑っているのだろう。
支払いを済ませ、チケットを受け取り痛い足を引きずりながら窓口を離れようとした時。
「長田さん! 昨日の通勤災害の書類なんだけど記載漏れがあったから書いていってくれる?」
窓口の奥のほうから別の女子社員に大声で呼ばれて戻る羽目になった。
労務厚生課と人事課と総務課は一室にある。その声はパーテーションで仕切られただけのフロア全体にほぼ響き渡っただろう。あちこちからくすくすと笑う声が聞こえてくる。
恥ずかしさのあまり俯きながらその人のデスクに向かうしかなかった。