重ねた嘘、募る思い

「そうじゃなくて、陽、さんのこと」
「ふぇ? あっち!」

 キムチ鍋をほおばりながら話すものだから口の中をやけどしたようで真麻が慌てふためいて口元を手で押さえた。
 気をつけなさいよと母に注意され、うんうんうなずきながら口の中ではふはふと熱さを逃がすようにしている。まるで魚みたい。まあ、そんな姿もかわいいんだけど。

「のん、陽に会ったの?」
「偶然、ね」
「どこで」
「会社の傍の駅」
「ふーん」

 ニマニマとほくそ笑む真麻を見ていやな予感しかしなかった。

「誰? 陽って」
「あれ、パパ気になる? あのねえ、クリスマスイブに……」
「真麻っ! 怒るよっ」

 慌てて止めると父と真麻が目を見合わせて肩をすくめた。油断もすきもない。
 うちの両親も真麻の両親も、そして真麻も妙にノリが軽い。小さい頃からわたしだけが馴染めていない感がずっと付きまとっている。わたしは本当にこの家の子なのだろうかと時々本気で思ってしまうくらいだ。

「花音にも春が来るのならそれでいいじゃないねえ~」

 のほほんとした表情でビールを一口飲む天然な母。なにもかもお見通しみたいな締めの言葉。
 春なんかくるわけないじゃない。
 いいの、わたしはひとりで好きなことを好きなようにして生きていくんだから。
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