重ねた嘘、募る思い
翌朝、ポケットから携帯を取り出すと陽さんからメールが一件届いていた。
ドキドキして開いてみると、『おやすみなさい』と一言だけ。
罵詈雑言だったらどうしようと思いながら確認したのに、なんだろうこの脱力感みたいなものは。
あんなに脅すようなメールをしてきたのに返信すれば信じてくれたみたいで、陽さんが何を考えているのかさっぱりわからなかった。
職場に向かいながらも陽さんのことが頭から離れない。
まるで恋をしているみたいじゃないか。違う違う。
あの人の職場も偶然この辺りなのかもしれない。たまたま見つかって声をかけられてしまったけど、今後会わなければ自然にフェードアウトできないだろうか。
職場に着き、鞄から社員証を取り出してセキュリティゲートにかざす。
「わっ!」
ばあん! と勢いよく腹部辺りに位置するゲートが閉じて、前につんのめりそうになった。
わはははと後ろからも前からも笑い声が聞こえてくる。
うぅ、この社員証、きっと接触悪いんだ。この前もこんなふうになったもの。人事課に行って新しいのに変更してもらわないとダメかもしれない。
「あ」
見てみると手の中にあったのは社員証ではなくICカード乗車券。これじゃゲートは開かないわ。
隣のゲートを颯爽と通りすぎて行く他部署の社員に見られてげらげらと笑われた。
ああ、もうなにもかもいやだ。