重ねた嘘、募る思い
そして仕事帰り。
セキュリティゲート手前のカフェをついチラ見してしまう。
購入口に立っているのは若いかわいらしい女の子ふたり。陽さんの姿はない。たぶん奥の方にいるのだろう。
このカフェではよく買っているけど、陽さんとは一度もと顔を合わせたことがないはず。
記憶にないだけなのかもしれないけど、わたしがここの社員だということを陽さんはいつ頃から知っていたのだろう。
とりあえずどうでもいい。早く帰って家で暖まろう。
今日飲んだカフェオレの味もよくわからないくらい気が動転していた。
「待ってたよ」
「ひっ!」
「ひっどいね、のんちゃん。その反応ナシでしょ?」
オフィスの正門を出たところに陽さんが立っていたのに全く気づかず通り過ぎようとしていた。
いきなり上から降り注ぐように声をかけられ驚かずにいられようものか。
アリかナシかで言ったら絶対アリのはず。不意に声をかけるほうが悪いんだ。
不服そうな表情の陽さんがぷくっと頬を膨らます。元々シャープな顔立ちだからわずかにしか膨らんでいないけど。
とにかく陽さんと一緒にいるところを先輩達に見られでもしたら大変。
知り合いなのって質問攻めにあうこと間違いなしだ。一刻も早く社の前から立ち去らねば。