重ねた嘘、募る思い

 いつの間にか陽さんが来ていたことに全然気づかなかった。
 わたしと似たような色のキャメルの革ジャンに黒のパンツ姿で、まるで合わせたみたいになってしまってる。そしてその手にはスケッチブック。
 
「絵、描く……?」
「ああ、うん。少しだけね。のんちゃんの風景画ほど本格的じゃないけど」

 あまりにいきなりのことでカタコトになってしまっていた。
 恥ずかしい、聞き直したいくらいだ。
 それにわたしだって本格的なんかじゃない。自己満足のただの趣味。
 陽さんがどんな絵を描くのか見てみたいけど、見せてはくれないだろうな。わたしだってできれば見せたくないから「見せて」なんて言えるはずもないけど。
 わたしがひとりで絵を描いて、ただとなりにいるだけじゃつまらないだろうなと思っていたから助かったかも。
 真麻攻略法を一緒に考えるにしても食事時とかの方がいいだろう。今は絵に集中したいし。
 そう思っていたら、陽さんがスケッチブックに向き直った。
 陽さんも描く方に集中したいのかもしれない。ちょっと気が楽になってわたしもスケッチを再開した。

 そしてすぐにstartlineの世界に引き込まれていく。
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