重ねた嘘、募る思い
弁当箱を片付けていると、わたしが持ってきたものじゃない水筒のコップが差し出された。
「ごちそうさまでした。これ飲んで暖まって」
熱々のカフェオレだった。
湯気がふわんと上に向かって立ち込め、甘いいい香りが漂ってくる。
躊躇いながらそれを受け取ろうとした時に陽さんのひんやりした指先に触れてしまい、思わず手を引いてしまった。
恥ずかしいのと申し訳ないのが入り交じったのと同時に不安になる。
風邪をひいてしまうんじゃないか。そう思ったらポケットから使いかけのカイロを取り出して差し出していた。
「こっ、これっ」
「えっ、でも」
「……わ、たしの使いかけなんていやでしょうけどっ、今っ、新しいの出しますからそれまで我慢してっ」
強引に陽さんの膝にカイロを置き、トートバッグを漁るとその手が止められた。
わたしの腕を陽さんが掴んでいる。
「いやじゃない。すごく暖かいや。ありがとう」
カイロを頬に当てて、陽さんがニカッと笑った。
ずきんと疼くような胸の痛みにいやな予感がする。
またわたしは同じことを繰り返してしまうんじゃないかって。
もらったカフェオレはほんのりと甘くて、じんわりと冷えた身体を癒してくれる。
それを口にするたびに陽さんの優しさみたいなものが伝わってきて虚しい切なさがじわりじわりと湧き上がってくるようだった。
そんな思いに気づいたわたしはひどくやるせない心もちになり、陽さんを見ているのが辛かった。
弁当を作りながら自分の中で感じた燻りはこれのような気がして、怖くなったんだ。