重ねた嘘、募る思い
そんな様子を感じ取ったのかわからない。
陽さんが急にいろいろ話しはじめ、なぜわたしの名前を知っていたのかを教えてくれた。
随分前のことだけど、社に入ろうとしてセキュリティゲートにひっかかった時(よくやる)社員証をゲート内にフッ飛ばしたことがあってそれを陽さんが拾ってくれたらしいのだ。全く知らなかった。
そういう経緯があって、わたしがよくカフェに来ている社員だということがわかったらしい。
毎日多くのお客さんと接してるのに覚えてくれたのは妙に印象に残ったからと笑われた。
「だからなんで名前を偽られたのかよくわからなかった。のんちゃん警戒心強そうだし、本名を教えることに抵抗を感じてたのかなって。」
「……」
「頑なにノブコって言ってたからノブちゃんで通してたけどね」
スケッチブックに向かいながらパークの前の木を書き始めた陽さん。
前髪が邪魔じゃないのかな、そんなことを思いながらその横顔をじっと見てしまっていた。
紘くんに似ている。
だけどそれとは違う思いで目が逸らせなかった。