重ねた嘘、募る思い

「今日はありがとう。これ、あとで見て!」

 別れ際に陽さんのスケッチブックを渡された。
 今日描いたであろう絵と思うけど、受け取ってしまっていいのかな。
 
「気に入ってくれるとうれしいな。じゃ、また週明けにね」

 手を振って駅のほうに向かって歩いて行く陽さんの背中をじっと見つめていた。
 駅まで一緒に帰ろうか、そんな言葉をかけてくれたのにもう少し描いていくと嘘までついたわたし。
 少しでも早く距離を置きたかった。
 終わるまで待ってると言ってくれたのに、音楽を聴きながら描きたいからと拒絶みたいなことまでして。

 陽さんは少し悲しげに笑っていた。

 奪うようにしてわたしの携帯番号を手に入れた時の強引さは微塵もなくて。
 昨日の帰り、今日の約束を取りつけて弁当を強要した自己中心的な行動も全くなかった。
 むしろ押し付けない程度の声かけ、そしてわたしのペースを崩さないように気配りまでしてくれたように思える。

 陽さんの姿が見えなくなって、受け取ったスケッチブックを開いてみた。

「っ?」

 それを見て一瞬息をするのを忘れてしまっていた。
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