重ねた嘘、募る思い
8.陽さんと真麻
翌週から先輩達が陽さんを見たいが為にコーヒーの配達を電話で注文するようになっていた。
数が多い方が配達依頼しやすいと言われて一緒に注文してもらっている。
なんとなく会いづらい。でもカフェオレを飲みたいという葛藤からは解放されて助かった。
陽さんが配達してくる頃を見計らってトイレに立ったり席を外すようにしたからオフィス内で顔を合わせることはない。
たまたま社外に用があって出る時にお店をちらっと見ると陽さんが接客していたりする。
その姿を見るだけで胸が苦しくなった。
どういう顔をしてあったらいいかわからない。
これ以上接してはいけないって思う。だって仲良くなればなるだけ苦しくなる。今ならまだ間に合うはずだもん。
これ以上深入りしてはダメって自分の中で警鐘が鳴っているから。
陽さんから受け取ったスケッチブックは常にわたしの鞄の中に入っている。
いつ返せばいいのかわからなくて。すでにタイミングもなにもない。偶然会った時に返せるようにいつでも持っているだけ。
あの日から一度も開いてはいないままで。
あの日の後からメールも電話もない。
スケッチブックを返しますくらいのメールをしてもいいとは思うけど、打っては消し打っては消しの繰り返しで結局下書きフォルダに入ったまま。
真麻に頼むのもおかしいし、封筒に入れてお店の子に預けることも考えたけどまだなにも実行に移せてはいない。