重ねた嘘、募る思い
結局返信できず、陽さんがそろそろコーヒーを配達にくる頃だと思って席を外してしまった。
もしかしたらまた脅しめいたメールが来るかもしれない。一瞬そう思ったけど、なんの連絡もないままその日の仕事を終えた。
これじゃ連絡が来るのを待っているみたいな自分に気づいて、本当にいやになる。
仕事を終え、重い足取りで社を出ようとした時についお店の方を見てしまった。
購入カウンターの前で若い女の子と陽さんが楽しそうに話している。それを見るだけで胸がちくりと痛くなった。
なんでこんなふうになるのかその理由を自身に深く追求することだけは避けたかった。
社員証が正常に読みとりをしてセキュリティゲートが開く。そこを通り過ぎようとした時。
「のんちゃん!」
お店から陽さんが走ってくるのが見えたけど、大きい声で呼ばれどうしていいかわからず、無我夢中でその場を逃げ出してしまっていた。
振り返ることもせずただただ走る。それ以上陽さんの声は聞こえてはこなかった。
胸がドキドキした。急に走ったからじゃない。
ひさしぶりに呼ばれた名前、向けられた笑顔。恥ずかしかったからじゃない。うれしかったから。
加速していく想いを偽るのが辛いくらいわたしの心の中は陽さんでいっぱいになっていた。