重ねた嘘、募る思い
「あの家、送ってくれてありがとう」
家の門を開けた時、真麻のよく通る声が聞こえてきた。
ちょうど帰ってきたところのようだ。また誰かに送られてきたみたい。
「夜道の女性のひとり歩きは危険だからね。それにこうやって送らせてくれるってことは僕を信用してくれているってことでしょ?」
「もちろん」
楽しそうに笑いあうふたつの声。
真麻と一緒にいるのは陽さんだ。聞き間違うはずがない。
ふたりはわたしの気配に気づいたのか、家の前で足を止めてこっちを見た。
「あ。のん、ただいまー」
わたしは固まったまま動けなかった。
驚いた表情の陽さんがわたしを見つめている。
なにか言わなくちゃ。そう思っているのになにも思いつかなくて頭が真っ白になっていた。
「うちに来るところだった? その格好じゃ風邪引くよ。そうそう、陽がのんに話がって――」
真麻の言葉を最後まで聞かないまま、家に入って玄関の扉を閉めていた。