重ねた嘘、募る思い
「花音はそういう予定はないのか? 真麻が言ってた、陽だっけ?」
「……ない」
その陽さんは真麻とつき合ってるから、と言おうとして口をつぐんだ。
言ってもしょうがないことは言うべきではないし、父には関係のないことだもの。
「真麻はバイタリティがあるよなあ。つい最近『彼氏と別れた』なんて眉間にしわ寄せて言ってたのに」
「あの子は昔からそうでしょ、今度はどんな相手なのかしら。長く続けばいいけどねえ」
「真麻の男運のなさは目に余るものがあるからなあ」
カラ笑いがキッチンに流れる。笑っていないのはわたしだけ。
ひとりで黙々と食べ続けるわたしの顔を両親が見ているのは気づいていた。
視線だけそっちに向けると、両親共にニコッと笑顔を見せる。わたしに気を遣っているような感じがして妙に居心地が悪い。
「何?」
「ううん、別に。花音だっておしゃれすればそれなりにモテるんじゃないかなあと思っただけ。その眼鏡、ちょっと変えてみたら?」
わたしがかけているのはスクエア型のべっ甲柄の黒。一番シンプルだと思うものを選んだ。
視力はそんなに悪いわけではない。裸眼でも大丈夫ではあるけど、遠くがぼやけるのでかけているくらいで。
その眼鏡を外してまじまじと見つめ、もう一度かけなおす。