重ねた嘘、募る思い

「眼鏡を変えたくらいじゃ何も変わらないよ」
「そうかしらね。今はおしゃれなのがたくさんあるじゃない?」

 いつになくしつこく勧めてくる母に少しだけ苛立ちを感じた。
 さらって流してほしかったのに。
 だからわたしも熱くなって、つい噛みついてしまっていた。 

「じゃあさ、お母さんが男だとしたらどうなの? 眼鏡を変えたくらいで真麻よりもわたしなんかとつき合いたいと思うわけ?」

 一瞬キッチンがシーンとする。
 そして困惑顔で微笑む母。わたし、一体何を言ってるんだか。
 ごめん、忘れて。そう言おうとした時。

「思わないわね」

 母はわたしから目を逸らして、コロッケに箸を伸ばした。
 ほら、やっぱり。同性の目から見たって真麻を選ぶんじゃない。

「少なくとも『わたしなんか』なんて自分で自分の人格を下落させるような女の子とつき合いたいとは思わない」

 弾かれたように顔をあげると、母はコロッケにかぶりついていた。
 その母を横目で見た父が続けざまにわたしを見て、うんうんと同調するようにうなずく。
 いつも天然で空気を読まない母がそんなことを言うなんて思いもしなかったから、その言葉がひどく重く感じた。

 恥ずかしいような悔しいような思いが押し寄せてきて、唇を噛みしめるとぎりりと音がした。
 言い返せるような言葉は見つからない。だってその通りだと自分でも思ったから。

 じゃあ、どうすればいいの。
 わたしにはわからないよ。
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